時制とは、「動詞がいつ行われたかを時間的に表現する」ための文法です。
それぞれの言語に、その言語特有の「時制」が存在します。
特に、英語には、動詞に一定の「形」を与えて、文章が「いつ」「どのような形で」行われたものなのかをよりわかりやすくするために、いくつかの「時制」が存在します。
「過去形」「現在形」「未来形」という形や、「進行形」「完了形」「完了進行形」という形がそれです。
注目すべき点としては、英語の動詞の変化で表せる時制は、「現在形」と「過去形」(~ed)だけです。
しかし、助動詞willやbe going to~などの慣用句を利用することで、「未来形」をも表現することができるようになっています。
このような「時制」という動詞の形を駆使することによって、文章が「いつ」「どのような形で」行われたものなのかが理解できるようになっています。
前節では、時制一般の話を説明しました。
英語における「時制」では、当然、英語特有のルールがあります。
本稿では、英語特有のルールの一つである「時制の一致」について解説します。
「時制の一致」とは、「英文の中に2つ以上ある動詞の『時制』を強制的に一致させる」という約束事のことです。
つまり、英語の文章は、時制という考え方で、「過去形」「現在形」「未来形」という動詞の形がまずあって、その上に「時制の一致」という特殊な約束事があるということです。
では、その「時制の一致」とはどういった約束事なのでしょうか?
それにはまず、例文を見てみましょう。
I knew that he was young.
この例文には正しい和訳と間違った和訳があります。
それぞれ見てみましょう。
正しい和訳:私は彼が若いことを知っていた(知っていた時点で、彼は若かった)。
間違った和訳:私は彼が若かったことを知っていた(知っていた時点で彼はすでに若くなかった)。
上の英文では、that節以下の和訳の「彼が若い」という日本語訳に対して、英語はwasが過去形になっていますので、日本語の雰囲気で言えば、間違った和訳の方の「彼が若かった」という日本語訳にならなければおかしいように感じてしまいます。
しかし、英語では、「正しい和訳」のほうが正解です。
それは、that節の前に、文章全体の動詞であるknew(knowの過去形)があるからです。
文章全体の動詞の過去形の意味は、that節以下にもかかってきます。
このknewが過去形であるために、that節以下も過去形の文章を続けなければいけない、というのが英語における「時制の一致」の考え方です。
I knew の箇所を主節、that節以下の文章を従節(主節の内部に組み込まれた主語述語関係)と言います。
英語における「時制の一致」では、主節の動詞が過去形の場合、従節の動詞も過去形にしなければいけないということです。
ちなみに、「時制の一致」の考え方は、主節の動詞が過去形の時にだけ当てはまる特殊なケースです。
つまり、主節の動詞が現在形、未来形、現在完了形の場合は、時制の一致は行われないのです。
例文で見てみると、
She says that she is busy now. <現在形>
She says that she was busy yesterday. <過去形>
She says that she has been busy recently. <現在完了形>
She says that she will be busy tomorrow. <未来形>
She says that she had been busy before. <過去完了形>
どれも正しい英文です。
主節がShe has said that ~<現在完了形>になっても、She will say that ~<未来形>になっても、that節以下には何の変化もありません。
しかし、唯一、主節がShe said that~という <過去形> になった場合にのみ、「時制の一致」のルールが発生し、that節以下の文章(太字の箇所)が過去形や助動詞の過去形、過去完了形に変わっていくということです。
以下では、その例文を見てみましょう。
まず、主節が現在形の場合です。
現在形の主節と従属節の双方を過去形に変換するタイプの「時制の一致」についてです。
<現在形> She says that she is busy now. (彼女は今忙しいと言っている)
↓
<過去形> She said that she was busy then. (彼女はその時忙しいと言っていた)
主節の「say」が過去形になることによって、従属節の「is」が過去形の「was」に変わりました。
これが「時制の一致」の基本形です。
次は、主節が現在形で、従属節が過去形・現在完了形・過去完了形の場合です。
この場合は、主節と従属節の時制がそもそもずれていて、はじめから違います。
この時は、主節が現在形から過去形になることによって、従属節がすべて過去完了形(大過去)になります。
つまり、
<主節:現在形、従属節:過去形> → <主節:過去形、従属節:過去完了形>
I think she was healthy. → I thought she had been healthy then.
この例文では、日本語ではわかりにくいですが、このように考えましょう。
左の例文は、「(過去の時点で)彼女は健康だったと、(今)私は思っている」という意味になりますので、まだ理解しやすいと思います。
右の例文のほうは、例えば、「3日前、彼女が健康だったとき」(過去の過去)の方が「私が昨日思ったとき」(過去)よりも古いことを省略されたthat節以下の過去完了形で示しているということが言えます。
ですから、「『あれ?彼女は三日前に健康だったのではなかったっけ?』ということを昨日考えました」というイメージなのが右の例文です。
そのほかに、2タイプの書き換えがあり得ます。
<主節:現在形、従属節:現在完了形> → <主節:過去形、従属節:過去完了形>
I think she has been healthy recently. → I thought she had been healthy before.
左の例文は、「彼女は(過去を含めて)最近健康だったと私は思っている」ということで、過去から現在までの間、健康状態が続いているということがポイントです。
右の例文は、先ほどと同じ過去完了ですが、現在完了を過去にした用法であるため、意味が「『彼女は以前に健康だったことがしばらく続いていた』のではなかったかと思った」という意味です。
そのため、例文では現在完了形の過去から現在の流れが、時間軸的に一塊になって過去の方に流れてしまい、「過去の過去」から「過去」に至るまでの間の状態の継続を意味するようになっています。
ちなみに、主節が現在形から過去形ではなくて、過去完了形に変わってしまう場合は、従属節はすべて過去完了形に変換されます。
ただ、主節も従属節も過去完了形であるというような英文は著者もあまり見たことがないので、ここでは割愛しましょう。
「時制の一致」の分野では、時制の基礎知識を応用して、文章の意味をつかんでいきますので、時制の用法を復習しておきましょう。
・時制の一致の例(主節が現在形で、従属節に助動詞がある場合)
主節が現在形であっても、従属節に助動詞がある場合は、当然主節を過去形にした場合に、従属節の助動詞が過去形になります。
それは、未来形でも未来完了形でも同様です。
例文を見てみましょう。
<主節:現在形、従属節:助動詞> → <主節:過去形、従属節:助動詞の過去形>
She believe her husband will come back soon. → She believed her husband would come back soon.
左の例文は「彼女は、夫がすぐに帰ってくるだろう(帰ってくるつもりだ)ということを信じている」となります。
右の例文は、「彼女は、夫がすぐに帰ってくるだろう(帰ってくるつもりだ)ということを信じていた」となります。
もっとも、文脈によっては、右の例文が単体で出てきた場合は、「彼女は、夫というものは、すぐに帰ってくるものだと信じていた」といった習慣を表す「would」である場合もありますので、注意してください。
・時制の一致と話法の関係
では、次に時制の一致と話法の関係を確認しましょう。
簡単に言うと、「括弧つきのセリフがついている文章(直接話法)をセリフのついていない文章(間接話法)に変換するときに、セリフの内部の動詞の時制がセリフの外の動詞と一致する」ということです。
これを文法用語で説明すると、「直接話法を間接話法に変換する際に、伝達される部分の動詞の時制が一致する」という形になります。
・セリフの内部の動詞が現在形の場合
例文を見てみます。
直接話法:She said, “I’m bored.” (彼女は「私は退屈している」と言った)
という例文があります。
この例文から括弧付きのセリフをとると、下記のように、
間接話法:She said that she was bored. (彼女は「私は退屈している」と言った)
となって、that節以降の動詞が現在形ではなくて過去形になります。
この例文は、動詞の現在形が過去形になる例でした。
・セリフの内部の動詞が過去形の場合
これ以外に、セリフの外の動詞が過去時制で、セリフの中の動詞も過去時制の時は下記のようになります。
直接話法(過去形):She said, “I was bored.” (彼女は「私は退屈していた」と言った)
この場合は、下記のように書き換えられます。
間接話法:She said that she had been bored. (彼女は「私は退屈していた」と言った)
過去形よりも過去を示す場合は、過去完了形を利用することになるため、that節以下を書き換えた後は、過去完了形になります。
また、考え方としては、直接話法のセリフの中が現在完了形でも過去完了形でも、書き換える際には、
直接話法(現在完了形):She said, “I have been bored.”
直接話法(過去完了形):She said, “I had been bored.”
↓
間接話法:She said that she had been bored.
になります。
なお、進行形の直接話法についても、間接話法に変換する際は、上の考え方と同様な変換をする形になります。
つまり、主節の動詞が現在形から過去形になった場合、直接話法のセリフの中が現在進行形である時は、過去進行形に、現在完了進行形であった場合は、過去完了進行形になるということです。
要するに、主節の動詞の時制のズレの分だけ、従属節の動詞・助動詞の時制が形をそのままにしてズレてくるということです。
・セリフの内部の動詞が未来形の場合
さらに、未来形の場合を検討しましょう。
直接話法:She said, “I will be bored.” (彼女は「私は退屈しそうだ」と言った)
この場合も、考え方は同様で、助動詞が現在形から過去形になるだけです。
間接話法:She said that she would be bored. (彼女は「私は退屈しそうだ」と言った)
なお、セリフの内部の時制が未来完了形であっても、他の助動詞であっても同様です。
念のため、一部例文を紹介します。
直接話法:She said, “Everything will have changed better soon.”
彼女は、「すべてはいずれもっとよくなっていくだろう」と言った。
上記英文は、未来完了形ですが助動詞があるため、助動詞を過去形に変換して、
間接話法:She said that everything would have changed better soon.
と書き換えすることになります。
さて、これまででは英語の文法上、時制という考え方の特殊例である「時制の一致」についてみてきました。
ここからは、その特殊例である「時制の一致」の中でのさらに特殊ケースになります。
それが、①~④の場合です。
「一般的な真理は、現在形で表現できる」というのが、現在形の慣用的な使い方です。
例えば、月が地球の周りをまわっているということを先生が教えてくれたとします。
例文は、直接話法では、
直接話法:His teacher said to him,” The moon moves around the earth.”
となりますが、間接話法でも同様に、主節の動詞の時制に影響されず、
間接話法:His teacher told him that the moon moves around the earth.
となり、動詞は現在形のままになります。
「今も続いている」ということを動詞の時制でなんとか表現するために、過去時制を使わずに、現在時制にすると考えると分かりやすいです。
歴史上の事実は、過去に起きた「揺るがない事実」であるため、該当箇所で過去形を利用するのが一般的です。
そのため、コロンブスがアメリカ大陸を発見したことを言う場合は、
直接話法:She said ,”Columbus discovered America.”
となります。
間接話法でも、同様に、
間接話法:She said that Columbus discovered America.
という形となり、動詞が過去形で表現されることになります。
本当は、discoveredの時制は、時間的には、時系列的にsaidよりも前を指しているため、過去完了形にならなければいけないはずです。
ところが、過去に起きた出来事は過去完了形にする必要がなくて、過去形のままで構わないということです。
「過去完了形にする必要がなくて、過去形のままで構わない」というところがポイントです。
現在でも変わらない習慣を表したい場合は、現在時制を利用します。
そのため、
直接話法:He said to her, ”I live with my grandmother now.”
となっている文章の話法を転換しても、
間接話法:He told her that he lives with his grandmother now.
となり、that節以下は、現在形のままで問題ないということになります。
この場合は、現在形のまま主語が変化する関係で三単現sが必要になることが多いので、文法間違いがないように注意して下さい。
このケースは、応用事例だと思ってください。
直接話法:My sister said, “If I were there, I could go with them.”
上の英文の直接話法を間接話法に転換する際、仮定法が利用されているため、時制を合わせようとするとif節以下が仮定法過去完了にならなければいけないように見えます。
しかし、間接話法では、
間接話法:My sister said that if she were there, she could go with them.
となり、元々の仮定法の時制のまま、話法を転換しても問題ありません。
that節以降の時制をsaidよりも過去の時系列と考える必要がないわけです。
この時制の一致の例外は、なぜ起きるかというと、仮定法が現在起こりえないことを過去の時制を使ってあえて表現する文法だということが大事なポイントです。
仮定法の文章は、上のような通常通りの文章の時制と全く違う理由で、過去形や過去完了形を利用しています。
一方、間接話法の文章は、ただ単に通常通りの時制のルールを適用して過去時制になっているにすぎません。
この「仮定法の時制」と、「通常の時制」の考え方の違いにより、時制の一致のルールが適用されないわけです。
ただし、時と場合によって、時制の一致の適用を受ける場合もあります。
例えば、My sisterが一緒に彼ら(them)についていけないことが確実である場合は、if節以下に仮定法過去完了を用いることも可能です。
結局、①~④の事例は、文章の意味からみて、主節の動詞の時制に影響を受けないような強い要因が従節の動詞の時制にかかってくるかどうかを考えると、より分かりやすくなるのではないかと思います。
一般的な真理も、歴史上の事実も、現在の習慣も、時制の影響を受けないような変えがたい現実であるからこそ、時制の一致のルールからはみ出していると理解すると分かりやすいです。
それでは、「時制の一致」の考え方のまとめです。
時制の一致自体は、英語の時制の枠組みの中で、主節の時制が変化したときのみに発動する例外的なルールです。
簡単な例でいうと、主節が現在形から過去形に変換されたときに、従節も現在形から過去形に変換されるというのが、「時制の一致」のルールでした。
ただ、時制の一致のルールも、時制の変動要因が従節の動詞により強く働く場合は、さらに例外的に「時制の一致」ルールの適用がされなくなるということです。
この記事を機会に、ぜひ英語の時制の細かいルールを覚えていただければと思います。
それでは、これまでの説明をまとめてみましょう。
英語の時制というものは、日本語とは感覚的に違う仕組みになっています。
まず、動詞の活用を通しても、現在形と過去形しか表現できないようになっています。
さらに、未来形には助動詞(willなど)か慣用句(be going to~)を利用しないと、表現ができません。
その上で、完了形や進行形といった時制が上乗せされる形で、全12種類の時制が利用できるようになっています。
そのため、どうしても複雑に感じてしまうかもしれません。
しかし、英語の時制は、決められたパターンしかありませんし、一つ一つを見てみると、実は非常に単純な作りになっていることがわかるはずです。
ぜひ、過去の時制の記事を参考にして、まず、時制について理解を深めたあと、この記事で英語特有のルールである「時制の一致」について理解を深めていただければと思います。