恒等式とは(右辺)=(左辺)の形の式が与えられた際に、その係数を求める問題で使う考え方です。しかし方程式と似ているため混同して間違ってしまうケースが多いため、受験生にとって見落としがちな点の一つになっています。今回はそんな恒等式の性質と証明を問題を通して解説していきます。
恒等式と方程式の違い
恒等式は方程式とよく対比されます。例えば以下の式は方程式に分類されます。
$$\begin{align}x^2-x-2=0 …x=-1またはx=2\end{align}$$
$$\begin{align}3x^2=-2x+1 …x=\frac{1}{3}またはx=-1\end{align}$$
これらの式はいずれもxに特定の値を入れたときのみに成り立つ式です。
このような特別な値を入れたときだけ成り立つ等式を方程式と呼びます。
これに対して恒等式とはxの値によらず、すべての値で成り立つ等式です。同じく例を挙げると、以下のような式が恒等式に当たります。
$$\begin{align}x^2-5x+6=(x-3)(x-2)\end{align}$$
$$\begin{align}2x-4=2(x-2)\end{align}$$
これらの式はxがどんな値でも成り立ち、上の式について恒等式であるといいます。
また恒等式は変数xがどのような値でも成り立つ等式であるため、いままで習ってきた「公式」と呼ばれる等式はほぼすべて恒等式に当たります。
例えば、
$$\begin{align}因数分解や展開{(a+b)^2=a^2+2ab+b^2}\end{align}$$
$$\begin{align}三角関数{\sin^2\theta+\cos^2\theta=1}などなど\end{align}$$
恒等式ではこのように、xがすべての値で成り立つような等式を指します。
恒等式の性質と証明
恒等式では定数a,b,c,A,B,Cについて、以下のような式が成り立ちます。
$$\begin{align}ax^2+bx+c=Ax^2+Bx+C\end{align}$$
上の式が変数xについて恒等式であるとき、
a=A,b=B,c=Cが成り立つ。
つまり恒等式とは等合をはさんで、右辺と左辺が等しいという式を指します。
そのためxの次数が同じ項に関してはその係数が等しいという性質を持ちます。
例;
$$\begin{align}ax^2+bx+c=x^2+2x+3 …a=1,b=2,c=3\end{align}$$
$$\begin{align}ax^2+bx+c=0 …a=b=c=0\end{align}$$
以上のように右辺と左辺が等しいことから、項同士を比較する作業が恒等式では重要になってきます。
それでは実際に恒等式の求め方について詳しく見て見ましょう。
恒等式の2つの求め方
恒等式には求め方が二つあります。一つは係数比較、もうひとつが数値代入です。
実践的な問題を解く際にはこの2つのいずれかの解法から、係数の値を求めていきます。
どちらも上で説明した恒等式の性質を利用した法則であるため、「恒等式はどのようなxについても成り立つ」「恒等式=係数同士が等しい」ということをよく頭に入れて、見ていきましょう。
1. 係数比較
係数比較は、恒等式の次数の項が同じであれば係数の値がそれぞれ等しいことを利用して、両辺を展開し、比較する方法です。一般的な恒等式を扱う問題はこの方法を使うことが多い傾向にあります。
実際に以下の例題を元に見ていきましょう。
$$\begin{align}(ax+b)(x-2)=(c-2)x^2+5x-2\end{align}$$
上の恒等式が成り立つように、a,b,c,の値についてそれぞれ求めなさい。
係数比較を使うためには、次数の同じ項同士を作りそれぞれ比較しなければなりません。
そのため、はじめに右辺・左辺を展開していきます。
$$\begin{align}(ax+b)(x-2)=(c-2)x^2+5x-2\end{align}$$
$$\begin{align}ax^2-2ax+bx-2b=(c-2)x^2+5x-2\end{align}$$
$$\begin{align}ax^2+(-2a+b)x-2b=(c-2)x^2+5x-2\end{align}$$
$$\begin{align}
これでx^2,xがそれぞれ出そろいました
\end{align}$$
そのため、同じ項同士の係数を比較していきます。
係数比較より
$$\begin{align}次数x^2の係数 …a=c-2\end{align}$$
$$\begin{align}次数xの係数 …-2a+b=5\end{align}$$
$$\begin{align}xのつかない数(0次)の係数 …-2b=-2\end{align}$$
$$\begin{align}-2b=-2より b=1\end{align}$$
$$\begin{align}2a+b=5にb=1を代入して \end{align}$$
$$\begin{align}2a+1=5 …2a=4 \end{align}$$
$$\begin{align}a=2\end{align}$$
$$\begin{align}a=c-2でa=2であるため\end{align}$$
$$\begin{align}2=c-2 …c=0\end{align}$$
$$\begin{align}a=2,b=1,c=0\end{align}$$
係数比較からa,b,cそれぞれの値について求まりました。
以上が恒等式の性質を利用した、係数比較と呼ばれる計算法です。
2. 数値代入法
数値代入法とは、恒等式のもう一つの性質「恒等式はどのようなxについても成り立つ」を利用した計算法です。
「恒等式がどのようなxについても成り立つ」ということは、xにどんな値を代入してもその恒等式は成り立つということを意味します。
この性質を利用して、恒等式の中で最も式が簡単になるxの値を代入して計算を行います。
これについても実際の例題を見ながら確認していきましょう。
$$\begin{align}2x^2+3x-2=a(x+1)(x-2)+b(x+1)+c(x-2)\end{align}$$
この式において、式がより簡単になるxの値を探していきます。
式をとき、a,b,cの値について求めるためには、a,b,cの文字を2つ以下に含んだ式がそれぞれ3つ必要になります。式を解くためにはa,b,cの文字が少ない方が都合が良いのです。
そのため(x+1)などの要素がそれぞれ0になるためのxの値を代入していきます。
はじめに左辺を元に式を簡単にする値を考えます。
$$\begin{align}2x^2+3x-2\end{align}$$
$$\begin{align}この式は(2x^2-0)+3(x-0)-2と同じ意味を表す式であるため、\end{align}$$
$$\begin{align}x=0のとき\end{align}$$
$$\begin{align}2*0^2+3*0-2=a(0+1)(0-2)+b(0+1)+c(0-2)\end{align}$$
$$\begin{align}-2=-2a+b-2c…(A)\end{align}$$
$$\begin{align}続いて、右辺のa(x+1)(x-2)に着目します。\end{align}$$
先ほどと同様に、この値が0になるようなxの値が最も式を簡単にする値であるため、
$$\begin{align}a(x+1)(x-2)=0 …x=-1,2\end{align}$$
$$\begin{align}x=-1のとき\end{align}$$
$$\begin{align}2(-1)^2+3(-1)-2=a(-1+1)(-1-2)+b(-1+1)+c(-1-2)\end{align}$$
$$\begin{align}2-3-2=-3c\end{align}$$
$$\begin{align}-3=-3c …(B)\end{align}$$
$$\begin{align}x=2のとき\end{align}$$
$$\begin{align}2(2)^2+3(2)-2=a(2+1)(2-2)+b(2+1)+c(2-2)\end{align}$$
$$\begin{align}8+6-2=3b\end{align}$$
$$\begin{align}12=3b …(C)\end{align}$$
$$\begin{align}-2=-2a+b-2c…(A)\end{align}$$
$$\begin{align}-3=-3c …(B)\end{align}$$
$$\begin{align}12=3b …(C)\end{align}$$
$$\begin{align}-3=-3c …c=1\end{align}$$
$$\begin{align}12=3b …b=4\end{align}$$
$$\begin{align}-2=-2a+4-2\end{align}$$
$$\begin{align}2a=2+4-2\end{align}$$
$$\begin{align}a=2\end{align}$$
よってa=2,b=4,c=1
これでa,b,cの値が求められましたが、実はこれだけでは証明として不十分です。
$$\begin{align}この式は2x^2+3x-2=a(x+1)(x-2)+b(x+1)+c(x-2)がxがa=2,b=4,c=1\end{align}$$
であるための必要条件を示しただけで、どのxの値でもこの式が成り立つかの確認ができていないためです。
恒等式はxがどの値でも常に成り立つ等式をさすため、その点が満たされているかの確認をする必要があります。
そのため、元の数式にa=2,b=4,c=1を代入します。
右辺に代入すると、
$$\begin{align}2(x+1)(x-2)+4(x+1)+1(x-2)\end{align}$$
$$\begin{align}=2x^2-2x-4+4x+4+x-2\end{align}$$
$$\begin{align}=2x^2+3x-2\end{align}$$
これは元の式の左辺に一致します。
よってxがどの値でも常に成り立つことが証明できたため、この式は恒等式であるということが証明できました。
数値代入法は以上のように、xに任意の数を代入することで与えられた式をシンプルにまとめ、その上で連立方程式から係数を導く式です。ただし係数比較の場合と違って、十分条件の確認を行わなければならない点に注意しましょう。
まとめ
恒等式の性質と証明、また恒等式を用いた問題の解き方について解説しました。恒等式では似た形の方程式と違った性質や解き方が必要です。しかしこの方法を知っていることで計算を簡略化できたり、証明に活用できたりなど普段の計算でも使うことができます。しっかりと復習/演習を欠かさずに、完璧にマスターしましょう。