「無生物主語」とは、その名の通り「生き物ではない主語」です。
例えば、「このパーティーに参加すれば、友達を作るチャンスがある」という文があったとします。
これを英語になおすとどうなるでしょうか。
一見して主語らしいものがありませんが、文意から判断して主語をyouにするという人が多いと思います。
主語をyouにした場合、
You will have a chance to make friends if you join this party.
となります。
これは、主語がyou=人=生き物なので、無生物主語ではありません。
youを主語にした場合、「もしあなたがこのパーティーに参加したら、あなたは友達を作るチャンスを持つ(得る)」という考え方をします。
しかし、主語をyouにせず英語になおせと言われたらどうでしょうか?
「このパーティーに参加すれば、友達を作るチャンスがある」という意味なので、
「このパーティーは、あなたに友達を作るチャンスを与える」と考えられます。
その場合、主語はThis party=生き物ではないものになるため、
This party will give you a chance to make friends.
と表すことができます。
これが「無生物主語」です。
You will have a chance to make friends if you join this party. と This party will give you a chance to make friends. はどちらも同じ意味ですが、主語が生き物なのかどうかという違いがあります。
無生物主語では、主語が無生物なのに述語動詞が生き物が行うようなことであるという特徴があります。そのため、日本語訳する際は直訳ではなく、日本語として自然になるように便宜上生き物を主語にする、などといった工夫が必要です。
この無生物主語ですが、表す意味のパターンがあります。
・無生物が人に~をさせる
・無生物が人に~をさせない
・情報源を示す
この3つが、主に無生物主語によって表される意味です。
それぞれ頻出の動詞があるので、一気におさえていきましょう。
「無生物が人に~をさせる」という意味では、以下の動詞がよく使われます。
・make
・cause/force
・allow
・enable
make+目的語+動詞の原形で、「目的語に~させる」という意味になります。
例えば、
The news made her call me.
という文。
The newsが主語で、「そのニュースは彼女に私に電話させた」
という意味になります。
しかし、無生物であるニュースが「彼女に電話をさせる」という訳は少々不自然です。
彼女は「そのニュースを聞いた結果として私に電話をした」と考えられるので、
「そのニュースを聞いて、彼女は私に電話した」のように自然な日本語になるように訳すのが一般的です。
このmake+目的語+動詞の原形ですが、
let+目的語+動詞の原形
have+目的語+動詞の原形
get+目的語+to+動詞の原形
という、似ている使い方があります。
これらは原形不定詞と呼ばれるもので、
let:~させる
have, get:~してもらう
という意味があります。
ですが、このlet, have, getは無生物主語をとりません。
The news let her call me. のような使い方は間違いです。
cause+目的語+to不定詞で、「(何かが原因で)目的語に~させる」、
force+目的語+to不定詞で、「(強制的に)目的語に~させる」という意味になります。
makeとは違い、目的語の直後はto不定詞がきます。
causeとforceの違いは、「そうせざるを得ないかどうか」です。
causeはあくまでも「結果に対する原因」という単なる因果関係を表すため、「そうせざるを得ない」わけではありません。
それに対してforceは「強制的にさせる」なので、「そうせざるを得ない」ものです。
スター・ウォーズに出てくる「フォース」を知っていますか?
あの「フォース」のスペルもこのforceです。
スター・ウォーズの「フォース」は遠くのものを操ったり、テレパシーで自分の考えを相手に伝えたりできる能力なのですが、
そうしたことは「強制的に」なされることであって、操られたりテレパシーを送られたりする側は「そうせざるを得なく」なります。
causeとforceの違いで迷ったら、「フォース」のことを思い出すとわかりやすいかもしれません。
His fatigue caused him to cancel the date.
これは、「彼の疲労がデートをキャンセルさせた」、つまり「彼は疲労によってデートをキャンセルした」です。
「疲労」は「デートのキャンセル」の原因ですが、「そうせざるを得ない」わけではありません。
よって、この文ではcauseを使います。
ですが、
The heavy snow forced us to cancel the picnic.
これは、「大雪が私達にピクニックを中止させた」、つまり「大雪のせいで私達はピクニックを中止した」です。
「大雪」は「ピクニックを中止」に「せざるを得ない」ものです。
よって、この文はforceを使います。
日本語訳としてはcauseもforceも同じですが、「因果関係なのか強制なのか」というニュアンスの違いがあります。
allow+目的語+to不定詞で「~を許す」という意味になります。
ですがこれは、「~のおかげで」と訳すことが多いです。
例えば、
This campaign allows me to get a new shirt for free.
という文は、直訳すると「このキャンペーンは私に無料でシャツを1枚もらうことを許す」、
転じて「このキャンペーンのおかげで、私はシャツを1枚無料でもらえる」という訳になります。
enable+目的語+to不定詞で「目的語が~できるようにする」という意味になります。
これは、目的語である人に何らかの能力を与えて何かをできるようにする、という意味です。
「~のおかげで」と訳せるallowと似ていますが、allowは能力を与えるわけではないという違いがあります。
例えば、
The lecture enabled them to use Excel.
は、「その講義は彼らをエクセルが使えるようにした」という意味です。
彼らは講義によって「エクセルを使える能力」を与えられたということです。
allowで使った例文、This campaign allows me to get a new shirt for free. は、私にシャツを1枚無料でもらえる能力を与えたわけではありません。
能力なのかどうかを見分けるポイントとしては、「身について、その後もできそうかどうか」です。
キャンペーンは終わってしまえばシャツを無料でもらえることはなくなりますが、
講義の場合は身について、その後もエクセルを使えるであろうと考えられます。
そのように、「身について、その後もできそうなこと」についてはenableが使えます。
remind+目的語+ofで「目的語に~を思い出させる」という意味になります。
これまでは動詞+目的語+動詞の原形や動詞+目的格+toでしたが、remindではofを使うということが特徴です。
例えば、
This song reminds me of you.
は、「この曲は君のことを思い出させる」、転じて「この曲を聞くと、君のことを思い出す」という意味です。
to不定詞と違い、ofの後には名詞がきます。
また、remind+目的語+ofは「過去のことや記憶にあること」を思い出させるものです。
よって、未来の予定やまだ行われていないことについてはこの用法では言えません。
未来の予定やまだ行われていないことについては、remind+目的語+to不定詞を使います。
そもそもto不定詞には未来のことを表すという要素があるのです。
スマートフォンなどで「リマインダー」という機能があるのを知っている人も多いと思いますが、
それは「未来の予定について、ある決まった時間になったらお知らせする」という機能なので、未来のことです。
そういった時はこのremind+目的語+toで言えます。
例えば、「おばあちゃんに手紙を送ることを言って(思い出させて)ね」という場合は、
Remind me to send a letter to my grandmother.
とし、remind+目的語+ofは使えません。
先程は「無生物が~させる」という使い方でしたが、同じように「無生物が~させない」という使い方もあります。
注意点としては、「~させない」だからといって否定文になるわけではないというところです。
また「~させる」の時よりも使われる動詞は少なく、汎用性が高いので、長文などで頻繁に見かける表現です。
keep+目的語+from~ingで「目的語に~させない」という意味になります。
この場合、「しないで済む」のようなポジティブなニュアンスで使うことが多めです。
keepは「取っておく」なので、直訳すると「~することからとっておく」という意味になるからです。
よって、~ingで表される部分にはマイナスのことが多くなります。
例えば、
A map keeps you from getting lost.
は、「地図はあなたを迷子になることからとっておく」つまり、「地図を持っていれば迷子にならずに済む」です。
「迷子になる」はマイナスのことなので、それが地図によって「しないで済む」ということです。
「~させない」という意味から否定的な文になると思ってしまいがちですが、実はそんなことはないのですね。
prevent/stop+目的語+from~ingで「目的語に~させない」という意味になります。
preventでもstopでも同じ意味になりますが、用例としてはpreventの方が多いです。
こちらはkeepとは違い、「~のせいで」というネガティブなニュアンスで使うことがあります。
preventは「妨げる」なので、直訳すると「~することから妨げる」です。
例えば、
The traffic jam prevented from her from arriving on time.
は「交通渋滞が彼女が時間通りに到着することを妨げた」、つまり「交通渋滞のせいで彼女は時間通りに到着できなかった」です。
無生物主語が情報源になっている文があります。
その場合、動詞は
・tell
・show
・say
の3つの知覚動詞を使います。
うち、showとsayはほぼaccording to~(~によれば)と同じ意味です。
無生物主語の述語動詞になるtellは、「情報を示す」という意味になります。
ただ、以下で紹介するshowとsayに比べると用例としては少なめです。
例えば、
The report told us the truth.
は「その報告は私達に真実を示した」です。
tellは「伝える」ですが、「伝える」と訳しても多くの場合はあまり差し支えありません。
無生物主語の述語動詞になるshowは、「明らかにする」という意味になります。
この場合、明らかにされることは情報や事実です。
例えば、
This data shows a sharp rise in prices.
は「このデータは物価の急騰を明らかにする」、つまり「このデータから、物価の急騰は明らかだ」です。
また、that節を伴うと「~ということを証明する」という意味になります。
用例としてはこちらの方がやや多めです。
例えば、
This data shows that Japanese population is aging rapidly.
は「このデータは、日本が急速に高齢化していることを証明する」または「このデータから、日本が急速に高齢化していることがわかる」です。
showはもともと「見せる」なので、主にぱっと見てわかること、図的に理解できることについて使われます。
無生物主語の述語動詞になるsayは、「書いてある」という意味になります。
この場合の主語は、文献あるいは何らかの掲示です。
例えば、
This book says that John Lennon was born in 1940.
は「この本には、ジョン・レノンは1940年に生まれたと書いてある」です。
sayはもともと「言う」なので、内容について注目するときに使われます。
以上が無生物主語の主な用法です。
「~させる」「~させない」「情報源を示す」の3つの使い方は、覚えていれば主に英作文などで非常に役に立ちます。
以下、おまけとしてその他の頻出動詞についても簡単にまとめておきます。
上記以外にも、無生物主語の文で頻繁に使われる動詞があります。
・take+目的語+to~「目的語を~に連れて行く」
ex) This bus takes you to the Shinjuku. (このバスはあなたを新宿に連れて行く=このバスに乗れば新宿に着く)
・cost+目的語+名詞「目的語に名詞を払わせる、名詞を犠牲にさせる」
ex) That task cost him much time. (あの課題は彼に多くの時間を払わせた=彼はあの課題のために多くの時間を犠牲にした)
・bring+目的語+to~「目的語を~に連れてくる」
ex) The dunes bring many tourists to Tottori. (砂丘は多くの観光客を鳥取に連れてくる=砂丘があるので、多くの観光客が鳥取に来る)
・和訳の際は直訳ではなく、自然な日本語になるように意訳する
・「~させる」系は
make
cause
force(強制)
allow
enable(能力付与)
remind(記憶にあるもの)
・「~させない」系は
keep(~せずに済む)
prevent
・「情報を示す」系は
tell
show(ぱっと見てわかる)
say(内容に注目)